
北海道芸術高等学校グループ(以下、「芸高」と言う)には、「超実践芸術授業」がある。
各企業・地域・団体とのコラボレーションに参加したり、各種コンテストや大会に積極的にチャレンジしたりと、非常に質の高い芸術教育を行っている。
ニコンクリエイツとコラボした産学連携『ミライプロジェクト』
今回は、ニコンクリエイツとコラボした『ミライプロジェクト』についてお届けする。
(株)ニコンのグループ会社である(株)ニコンクリエイツは、新しい映像価値を創造するビジョンを掲げ、最先端の映像テクノロジーとクリエイティブな感性を融合させた、次世代の映像制作会社だ。
ミライプロジェクトは、「クリエイターを目指す高校生のアイデアを聞いてみたい」という同社の依頼からはじまった。
同社は、空間全体を3D動画データ化し、高品質データを生成することができる技術「ボリュメトリック」にとくに力を入れている。日本ではまだまだ新しく、この技術が当たり前になるのは、3年後、5年後の未来とのこと。
この最先端の技術の可能性を探るため、高校生の柔軟な発想を求めて芸高にお声がかかったのだ。
参加した生徒は全国から計17名。コース・学年を問わず、さまざまな個性が光るクリエイターの卵たちが集まった。アイデア出しという役目を授かり、楽しみと同時にプレッシャーも感じながら、いざ当日を迎えた。
見学会場はニコンクリエイツの複合施設「平和島ステージ」
ミライプロジェクトは2日間にわたって行われた。見学会場は、最先端テクノロジーを備えたニコンクリエイツの複合施設「平和島ステージ」。
最先端の映像技術を活用したプロの現場に足を踏み入れ、生徒たちのワクワクは止まらない。
「大人では思いつかない、枠にとらわれないアイデアで、わたしたちを驚かせてください」
このようなニコンクリエイツ代表取締役 兼 社長執行役員の平野和弘氏の挨拶からスタートし、まずは、バーチャルプロダクションのスタジオ見学へ。

バーチャルプロダクションは、背景を表示した大型ディスプレイや、グリーンバックなどを用いて、背景の動きやアングルを被写体に連動させながら、撮影・合成する技術で、実際に近年映画などで使われている技法だ。
実際にスタジオで車の撮影を体験。バーチャル背景と現実の被写体が自然に合成されるリアリティあふれる光景に、生徒たちのボルテージは上がるばかりだ。

そして次に、ニコンクリエイツの最先端の映像技術ボリュメトリックビデオのスタジオ「POLYMOTION STAGE」の見学へ。

ボリュメトリックビデオは、被写体の周囲360度を100台以上のカメラで撮影/合成することで空間全体を3D動画データ化し、高品質データを生成することができる。撮影した人物の表情や微細な箇所までフォトリアルに再現できるというから驚きだ。
生徒たちは実際に被写体となり、その撮影空間を体感!撮影後のデータ作成までのフローも学んだそうだ。プロの現場の最先端技術に、みな興味津々で質問が止まらなかったという。

スタジオの見学後はニコン本社へ移動し、ワークショップへ。
バーチャルプロダクションとボリュメトリックビデオの新たな可能性について、生徒たちが4つのグループに分かれてアイデアを出し合うグループディスカッションが行われた。
振り分けられたグループは、異なるキャンパスで学年も様々な生徒同士だ。初見の仲間たちに物怖じせず、楽しく意見を出し合えるのが芸高の生徒らしいなと感心。
しっかりと意見を出し合うことができた証拠は、プレゼン内容を見れば一目瞭然だ。
平野社長を含めたニコンクリエイツの方々を前にしたプレゼンテーションは、翌日にニコン本社で行われた。

2日目のプレゼンテーションで発表された内容は、想像力豊かで実に面白い。
一部を以下にする。
・ ボリュメトリック撮影 BOX を証明写真の BOXみたいに設置し、プリクラのように簡単に撮影してデータをもらえる
・ 人間の動きをデータにできるため、逆にアニメーションにしやすいのではないか。アニメの作画や、データ化したモデルに衣装などを描き込む3Dファッションデザインに
・ 石膏像など芸術作品が壊れるシーンを撮影して、壊れる過程を映像アートとして表現、バーチャル世界で美術品を見て買うバーチャル美術館も
・ 体の不自由な方が実際に行かなくても良い思い出が作れる仮想旅行、実際に存在しない場所も面白いのでは
・ ライブのステージ側から見た世界を体験できる、アーティスト体験仮想ライブ

自分たちの言葉でしっかりと伝えられたと満足そうな生徒たち。
平野社長からは、「弊社のメンバーも刺激を行け、更なる高みを目指していこうと気持ちを新たにしました。非常に良い座組を組ませていただき、ありがとうございました。」というお言葉をいただいたそうだ。
産学連携『ミライプロジェクト』統括者の感想
ミライプロジェクトの統括を担当した横浜芸術高等専修学校 副校長の丹下哲成先生に、今回のプロジェクトの感想を聞いてきた。

「ボリュメトリック」「バーチャルプロダクション」といった最先端の撮影技術を使用した「新しい企画提案」をして欲しいと(株)ニコンクリエイツの代表取締役 平野様からご依頼を受けました。
当日、全国から集まった恭敬学園(芸高)の生徒たちは、ニコンクリエイツスタジオ見学をして、その最新の撮影技術に触れました。
「バーチャルプロダクション」は映像であるにも関わらず、本当にその場所にいるかのようなリアル空間を体現し、「ボリュメトリック撮影」では100以上のカメラが設置してあるスタジオで撮影をした映像が3DCGのデータとして書き出されていくという技術を目の当たりにして、生徒たちは無限に広がる映像表現の可能性を感じました。
見学後にはグループで話し合って、様々なアイデアが出されました。「美術作品を破壊する映像をボリュメトリックで撮影してバーチャル美術館」をつくる「証明写真を撮影するように町の至る場所にボリュメトリック簡易撮影BOXを設置し、即席でできる自身の3DCGデータを購入できる。」など高校生ならではのアイデアが生まれました。
ニコンクリエイツの方々から高校生の新しい発想と斬新なアイデアを高く評価していただきました。
生徒たちが普段学んでいるのは「絵を描く」「モノをつくる」という表現技法ですが、今回体験したアイデア出しは、常にどんな絵を描くか想像する生徒達にとって楽しみながら企画を出せたのではないかと思います。
「デザイン思考」や「アート思考」といったモノをつくり出す上で必要な「思考法」を学んでいるからこそこうした企画提案にも楽しく取り組めたんだと感じます。
全国から集まった恭敬学園の仲間。刺激をうけながら、共に過ごした2日間はかけがえのない体験になった事と思います。
参加した生徒たちの感想
最後に、生徒たちの感想も共有いただいたのでいくつか紹介したい。
・ 見学内容やディスカッションはすごく良くて、充実した時間を過ごせた。特に、ボリュメトリック撮影の技術がすごく、やりたい事やイメージが広がった。
・ クリエイターとしてやりたいことを考え、目的や需要はあとから着いてくることを学んだ。
・ 新しい技術の利用方法は、はじめは自分の欲求を満たす使い方の方が面白いと思った。
・ 物を見てそれをどう活かすか、それを考える力がとても養われたなぁと思いました。
・ 実際に考えてみて、まだまだ発想力が欠けていると痛感した。
・ アイデアが枯渇したり新しいアイデアが浮かばない時は、自分とは違う視点の他の人の意見を聞き、その意見をどう活かせるか考える、ということの重要さを学びました。
・ 新たな技術面、応用は前提として、それをどう用いるかの創造性、発表をする際のまとめる能力など、様々な面で成長を感じられました。
・新しいカメラの技術を学べて、たくさんの想像をグループのみんなと取り組むことができて、貴重な体験となった。
・ 編集のソフトをよく使うので今回学んだことを活かそうと思います。
・ 実際に企業さんへ訪問する機会というのはそうあるものではないので、貴重な体験だった。それも最新の技術を見せていただけて、将来を見据えるいい刺激になりました。

「クリエイターを目指す高校生のアイデアを聞いてみたい」
という依頼からはじまったミライプロジェクト。
生徒と企業、双方にとって今後につながる得がたい機会になったことだろう。とくに生徒たちの受けた刺激は、想像もつかない。
生徒たちの感想からはグループディスカッションでアイデアを絞り出した様子や、プレゼンのためにアイデアを必死にまとめた努力が見てとれる。副校長 丹下先生がおしゃっている通り、「デザイン思考」や「アート思考」といった考えをしっかり理解し、高校生ながらに他社の意見も尊重する様子には感心せざるを得ない。
このプロジェクト、中学生で見学していたら、あまりに現実離れした世界に驚きで終わり、現実的に自分とつなげることはできない気がする。しかし高校生だからこそ、この最先端の世界を理解し、こんな企業で働いてみたい、こんな技術に関わる仕事をしてみたいと、自身の将来に照らし合わせることができていると感じる。プロの現場を体感し、日々の課題への取り組み方にも、より熱が入るのではないだろうか。
生徒たちの好きなこと、やりたいこと、子どもたちの芸術のチカラが、地域のため、企業のため、社会のために繋がっている。
各企業・地域・団体が提供してくれる稀有な機会は、まさに特別な「超実践芸術授業」だ。
生徒たちに新たな目標を持たせてくれる機会を模索し、実現する芸高の取り組みが、今後も楽しみで仕方がない。
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